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前立腺の3大疾患

Q&A回答者
岡田弘先生(獨協医科大学越谷病院 泌尿器科主任教授)
神戸大学医学部卒業。男性不妊治療の権威として、男性内分泌学の仕事に従事。ベッドサイドで患者を注意深く見守りながら、泌尿生殖器癌・尿路性器感染症・排尿機能障害の診療にあたっている。著書『男を維持する「精子力」』(ブックマン社)

Q&Aで知る 前立腺の病気

What’s 前立腺肥大症

前立腺肥大症とは?

前立腺肥大と肥大症は違います。肥大だけなら病気ではありません。前立腺が肥大して、尿道を圧迫し、尿の出が悪くなったり、残尿感などの症状があってはじめて「前立腺肥大症」と診断されます。軽い症状のままずっと推移する人、突然、頻尿や残尿症状を呈する人など、個人差が大きいのも前立腺肥大症の特徴です。お薬による治療や内視鏡手術が一般的になった現在では、尿閉まで悪化する患者さんは一部にとどまります。

前立腺が肥大し始めると、排尿に違和感が生じる → 前立腺がさらに肥大してくると、残尿感が生じる → 前立腺の肥大が非常に大きくなると、残尿感が非常に強くなり、尿閉も頻繁に起きる

年をとったら、肥大症になることは避けられないのですか?

中高年の男性には避け難い病気と言っても過言ではありません。前立腺肥大症は加齢と深い関係があり、50代は50%、60代で60%と、年代=パーセンテージというデータもあり、50代で症状が出始め、80歳までに日本人男性の約7割が前立腺肥大症にかかるといわれています。

良性の疾患ですが、排尿に異常を感じたら、早めに泌尿器科専門医に相談しましょう。稀に、肥大がなくても排尿困難で前立腺肥大症と呼ぶこともあります。

前立腺肥大症が進行するとどうなりますか?

「排尿時にいきむ必要がある」「排尿後に、まだ尿が残っている感じがある」など、IPSS(国際前立腺症状スコア)に示されたような症状が強くなり、進行すると、尿閉(おしっこがほとんど出なくなる状態)となり、尿道にカテーテルを入れて強制的に排尿せざるを得なくもなります。悪化すると、腎臓機能障害を発生することもあります。

前立腺肥大症は、自己診断できますか?

IPSS(国際前立腺症状スコア)は自己診断のためのツールではありません。アンケート形式の検査で、自分の排尿障害のレベルがわかります。その結果の解釈は専門の泌尿器科医に相談するのがよいでしょう。

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前立腺肥大症は、良性と聞きましたが?

良性ですが油断はできません。合併症を起こしやすい病気でもあるからです。たとえば残尿状態が続くと細菌が繁殖し、尿路感染症が発症しやすくなります。尿閉から腎機能障害になり、結果水腎症を併発し、ひいては腎不全になることもあり得ます。もっと大事なのは、前立腺肥大症のかげに前立腺がんが隠れていることがあるということです。

前立腺がんに進展することはありますか?

まずありません。理由は、発症する部位が異なるからです。前立腺がんは前立腺の外腺(外側の組織)に、前立腺肥大症は内腺(内側の組織)に発症し、前立腺肥大症から前立腺がんに進展するということは、まずありません。ただし、2つの病気が同時に起こる場合はあり得ます。前立腺肥大症があるから、前立腺がんにはならないと考えるのは間違いです。

前立腺肥大症の検査法は?

初診の検査は問診、尿検査、血液検査、直腸診、超音波が一般的です。前立腺肥大症は良性の病気で、命に関わるものではありません。しかし、症状の悪化に伴ってQOLは低下します。ひいては腎不全にもなることもあり得る病気です。的確な治療法を見つけるためにも、検査を受けましょう。

●初診の場合

【問診】おしっこの状態を把握します。

  • 排尿障害、頻尿、残尿感、排尿痛など、症状について詳しく聞き取ります。
  • 既往症について確認します。糖尿病や脳血管疾患などは排尿障害につながることがあります。
  • 血縁者の病歴を確認します。前立腺肥大症に遺伝性はありませんが、発病しやすい体質や、同じような生活習慣があると罹りやすい傾向があります。
  • 飲んでいる薬を確認します。薬によっては排尿障害を起こすものがあるからです。
  • IPSSによる質問も行います。

【尿検査】試験紙を使った検査だけでは、尿中の悪性細胞や尿路感染症を見逃してしまいます。必ず、顕微鏡を使っての尿の検査を受けましょう。

【血液検査】PSAを調べます。同時に腎機能のチェックを行います。

【直腸診】医師が肛門から指を入れて、直腸の壁越しに前立腺を触診。前立腺の大きさや硬い部位がないかを調べ、がんの疑いがあるかを検討します。

【超音波検査】下腹部にプローブをあてて、前立腺の大きさと異常を調べます。

●再診の場合

【尿流量測定】センサーが設置された便器におしっこをして、排尿の勢いや、要した時間などを調べます。

【残尿測定】超音波を使って膀胱内に残っている尿の量を調べます。

●その他、前立腺だけでなく、膀胱の機能を検査するために

【圧尿流測定】排尿時の膀胱の収縮圧を測ります。

【膀胱内圧測定】尿道から膀胱に管を入れて、膀胱内の圧力を測ります。

【尿道・膀胱鏡検査】内視鏡を使って膀胱や尿道の状態を確かめます。

前立腺肥大症の治療法は?

薬物治療と手術療法があります。かつては手術で前立腺を切除するのが主流でしたが、現在では薬物療法が中心となっています。ただし薬は症状を軽くすることはできますが、完全に治すことはできません。また、前立腺肥大症でも排尿に不便を感じていなければ治療の必要はありません。

前立腺肥大症の診断ガイドライン(一部改変)

*診療ガイドラインは、あくまで一つのモデルであるに過ぎません。現実にはそれぞれの患者さんの診療や検査結果に応じて、最適な治療法が選択されることになります。

●薬物療法   泌尿器科で処方される薬は主に2タイプ

【α1ブロッカー】前立腺や膀胱頚部の平滑筋の緊張を緩めて、尿道を広げ、尿の通りをよくする、前立腺肥大症の第一選択薬です。根本治療薬ではありませんが、副作用が少なく、排尿時のいきみや尿線の細さ、頻尿、残尿などが改善できます。

【抗男性ホルモン薬】男性ホルモンの働きを抑制して、肥大した前立腺を小さくして尿の通りを改善する薬です。最大効果を得るためには半年以上の服用が必要です。性欲減退、血栓を生じさせやすいなどの副作用が伴います。

【その他】植物エキス剤、漢方薬がありますが、排尿障害を改善する効果は、はっきりと実証されていません。また、勃起障害の治療薬「PDE5-i(シアリス)」が2014年春から前立腺肥大症の適用薬となっています。

●手術療法

【経尿道的ホルミウムレーザー核出術(HOLEP)】腺腫をホルミウムレーザーで切開し、前立腺被膜から剥がしてモーセレーターという器械で吸い取る治療法です。最近はこれが手術療法の第一選択になる傾向があります。

【経尿道的KTPレーザー蒸散術(PVP)】ホルミウムレーザーよりパワーが強いKTPレーザーを使用して蒸散させる治療法。小さい腺腫が対象です。

【経尿道的前立腺切除術(TURP)】尿道から内視鏡を挿入して、先端部にあるループ状の電気メスによって、肥大した腺腫を少しずつ削り取ります。体へのダメージが少なく、根本的治療法として最も行なわれている方法です。傷跡も残りません。ただし、2時間以内(理想は1時間以内)に手術を終えなければならず、熟練した技術が必要です。

【開腹術】現在ではほとんど行なわれていません。

検査の流れや、たくさんの治療法があることがわかりました。「もしかしたら、がんかも」という不安が小さくなりました。

治療にはリスクもあります。治療を始める前に医師とよく相談して納得のいく方法を選ぶことが大切です。同時に、生活を見直すことも必須事項です。

あらためて、前立腺肥大症と前立腺がんは全く異なる病気なんだと腑に落ちました。一生、PSA検査を続けていく大切さも理解できました。

What’s 前立腺炎

前立腺炎とは?

前立腺が炎症を起こした状態をさします。あらゆる年代の男性に起こり、「急性(細菌性)前立腺炎」と、「慢性前立腺炎」「慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)」に分かれます。「慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)」は、慢性前立腺炎が主たる原因で起こる骨盤痛です。

前立腺炎 急性(細菌性)前立腺炎 慢性前立腺炎・慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)

前立腺炎の原因菌は何ですか?

尿道から入ってきた細菌の感染が原因で起こります。急性前立腺炎の原因菌は、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性桿菌です。慢性前立腺炎の原因菌は、急性前立腺炎と同じグラム陰性桿菌のほかに、クラミジアやトリコモナスなどの弱毒性微生物が加わります。

急性前立腺炎の症状と診断方法は?

排尿後の熱感や痛み、頻尿、尿意切迫、会陰部痛などが上げられます。尿は濁り、血尿や尿道から膿みが出ることもあります。悪寒や高熱、食欲不振などの全身症状を起こすこともあります。診断は、直腸診ですぐにわかります。肛門から指を入れて直腸の壁から前立腺に触れると飛び上がるほどの痛みがあるからです。 (急性期に前立腺を触ると悪化するケースがあるので、行わないこともあります)。尿には白血球や細菌尿が見られ、必要に応じて血液検査も行います。

慢性前立腺炎の症状と診断方法は?

急性前立腺炎と同じように、頻尿や尿意切迫、排尿困難、会陰部痛、会陰部不快感などの膀胱刺激症状があります。直腸診で前立腺に触れると尿意をもよおすぐらいの軽い痛みがあります。診断は超音波検査で前立腺の状態を確認し、尿の細菌培養で原因菌を調べます。菌がいる場合といない場合があります。前立腺マッサージをした後、尿を検査し、白血球の数や細菌の有無を調べることもあります。気づかないうちに罹患していることが多く、急性から慢性に移行することもあります。

あまり一般的な病気ではありませんが、年齢は20〜40代の若い世代に多く、症状を悪化させる要因として、飲酒、過労、緊張、長時間の座位、刺激物の摂り過ぎ、慢性的な骨盤底への物理的刺激(長距離トラックやタクシードライバー、自転車通勤者)などがあげられます。

慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)の症状と診断方法は?

慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)は、骨盤付近に半年以上続く痛みを総称した言葉として用いられています。症候群ですから症状は一緒でも原因は個々に異なりますが、男性の場合は慢性前立腺炎が原因のことが多く、症状と診断方法は、慢性前立腺炎とほぼ同じと捉えています。

前立腺炎の治療法は?

症状が改善するまでは数ヶ月単位と、治療に時間がかかります。根気よく確実に治療を続けていきましょう。

●薬物療法

【抗生物質】急性前立腺炎の場合、慢性化させないように原因細菌に効く抗生物質を最低でも4週間投与します。高熱で緊急を要する場合は、入院が必要になります。慢性前立腺炎の場合も2〜4週間の投与が行なわれ、植物エキス剤を服用することもあります。

●生活改善

【改善因子】慢性前立腺炎を悪化させる因子として、飲酒癖、過労、緊張、ストレス、長期座位、刺激物の多量摂取、射精不足、熱いお風呂、慢性的な骨盤底筋への物理的刺激などがあります。改善因子として、水分摂取を促す、整腸、温座浴、軽い運動、一定期間ごとの射精などに効果があります。

この年齢になったらおしっこにも日頃から意識を向けないとな…

そうですね。生活も見直してみてください。射精も大事です。

What’s 前立腺がん

前立腺がんとは?

前立腺の腺細胞ががん化したものです。加齢によるホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。近年増加しているがんですが、ゆっくり進行するため、早期に発見できれば根治しやすいがんでもあります。

前立腺がんの症状は?

初期はほとんど症状がありません。そのため自覚症状での早期発見が難しいがんです。ただ前立腺がんを発症している場合は、ほとんどの場合前立腺肥大症を患っています。進行すると肥大症と同じような症状が出ます。次第に排尿困難、夜間の頻尿、尿意切迫感、血尿などおしっこに障害がみられるようになります。時に、精液に血液が混じる血精反応がみられます。

前立腺がんの原因は?

医学的な原因は、はっきり解明されていません。しかし統計によって“前立腺がんになりやすい人”として明らかになっている事実があります。当然ですが、最大の要因は加齢によるリスクの増大です。2つ目は遺伝です。3つ目は、俗にいう欧米化した食生活です。高カロリー、高たんぱくの食事やバランスの悪い食事は前立腺がんのみならず、すべてのがんや病気の原因になります。4つ目は男性ホルモンの影響説、5つ目が人種です。アフリカ系アメリカ人、欧米人の罹患率が高く、アジア人の罹患率はまだまだ少なめです。

進行するとどうなるのですか

前立腺肥大症と同じような排尿困難を起こします。尿道が圧迫される症状は、前立腺肥大症とそっくりです。しかし、両者はまったく別の病気です。前立腺がんはそのまま進行すると、骨やリンパ節などへ転移します。骨転移による腰痛やリンパ節転移による下半身の浮腫がおきることがあります。また、周辺臓器である精嚢に前立腺がんが浸潤すると精液に血が混じったりします。

日本人に前立腺がんが増えている理由は?

ひとつは日本が世界一の長寿国になって、高齢者が増えたことがあげられます。前立腺がんは高齢者に圧倒的に多い病気なので、年配者が多くなるほど罹患率は高くなります。もうひとつは、高カロリー、高脂肪の欧米式の食生活が深く関わっていると考えられています。

PSA検査で前立腺がんが疑われた場合は?

泌尿器科を受診してください。

泌尿器科ではどんな検査をしますか?

前立腺全般の検査をして調べます。直腸診や超音波診断を行なってなおやはりがんの疑いが濃い場合には、生検を実施します。

【直腸診】医師が肛門から指を入れて、直腸の壁越しに前立腺を触診。がんの疑いがあるかを検討します。

【経腹的超音波検査】外側から下腹部に超音波をあてて、前立腺の状態を撮影して診断します。

【経直腸的超音波検査】細長い専用のプローブを直腸に挿入して、超音波で水平、垂直の両面から前立腺の様子を確認します。

【前立腺MRI検査】造影剤を使ったMRIを行なうことによって、他の画像診断より正確に前立腺がんの疑われる場所を特定できます。

【生検】経直腸超音波でみながら針を使って前立腺組織を12〜16ヶ所取り出し、顕微鏡でがん細胞の有無を病理学的に調べます。生検1回のがんの検出率は約50%。1回で確実に陰性と判断できない場合は、再び生検をすることもあります。

国立がん研究センター がん情報サービスのサイトへリンク

泌尿器科と上手くつきあいながら、「もしかしたら、がんかも」という先ばしりはやめようと思います。

ストレス、不安は万病のもとですからね。